視点変更。
前回と注意点は同じです。
ガーランド正式NO9。
私が持っているのは当たり前の番号。
成功作になるべくして造られたのが私だった。
失敗や成功や、そう言ったものを全部詰め込んで出来たのが私。
だから私は全て持って生まれて当然で、輝かしい運命が待ってるのだって当然なんだ。
だって私は素晴らしいんだから。
人に愛されるべき容貌を持った私に、人が従うのは当然で。
そうさせるのが、私の持った力。
それを使えば、望むことは何でもできた。
本当に望んだことは、叶うかはわからないけれど。
ああ、外に出たいなあ。
こーんな白い壁ばかりじゃ気が滅入っちゃう。
詰まれた本は全部読んじゃった。
青い空も、天に輝く太陽も、本だけの絵空事だけど。
私にはそもそも灰色の空すら四角い枠でしかない。
ああ、外に出たいなあ。
「ねぇパパ!わたし、つまんない!」
全っ然わかってない!
外は危ないからダメとか、子供扱いにしないでよ?!
ヒース兄ぐらいならすぐ追い抜ける頭脳と実力だって持ってるのに!
一人じゃダメ?なにそれ、護衛は数に入らないの?
罵倒一つで死ぬような護衛でも、塔に手を出すバカなんて内周にはいないわよ!
……なんですぐにいつも、そんな顔してごまかそうとするの?
何にもわからない子供だって言われて丸め込まれてるの?
バカにしないでよパパ。
可愛い娘が逃げ出さないって、無能の馬鹿どもを説得するのも大変だってわかるけど、
そういう誤魔化しは無しにしてよね!
言えば良いのよ、サルビアは子供なんかじゃない、って。
……兄さん達には良く言ってるんだから、私にだって言ってくれたって良いじゃない。
そう言われたら、私だって文句言わないぐらいの分別はあるんだから。
ふんだ。
でも、これ以上言っても仕方ないから、1000歩譲ってあげるわ。
ありがたく思ってよね。
「じゃあ、今度、わたしが何かほしいって言ったら、ちゃんと頂戴!」
仕方ないなぁ、なんて顔してていいの?いつもの事だと思ってるんじゃない?
本気でふっかけてやるんだから。
見てなさいよ……。
それにしても……。
だれよ、あれ。
ぼーっと私たちの事みてるけど。
……赤い瞳、変異器官。私よりは……背も高いわね。
きょうだいの誰か?
パパ、私あんなヤツ知らないんだけど。
で、あいつ、見てるだけで声もかけないの?エラそうね。
じゃあ、お望み通り、こっちから言わせてもらうわ。
「なんでわたしに名乗らないの?」
睨んでやったら、びくりとした。
よわ。
早く名乗りなさいよ、何その顔。
え、クインス?
パパ、なんで名乗る前に言っちゃうかなぁ。
でも、わかったわ。名乗らない理由も、その顔も。
「ばっかじゃないの?」
むかつくわ、こいつ。
要は、失敗作だから名乗って覚えてもらう必要もないってことでしょ?
生きることを、舐めてんの?
「ねぇパパ、こいつ、“出来損ない”でしょ?」
指さして、見もせずに言ってやった。
ちょっと清々した。
「聞いた事ないし、じぶんの名前も名乗れない。バカみたい」
誇れるものも何にもないんでしょ。
胸を張ることもなく、ただふらふらしてさ。
だから名乗れないんだ。
キショいヒース兄だってここまで終わってないわ。
誰が見たって失敗作。
あ、何か怒ってる。
……ま、怒ってくれなきゃ張り合いないんだけど。
なんて言うのかな。
『全部、持って生まれてきたくせに』
…………?
何言っちゃってんの、こいつ。
よりにもよってそんな言葉?あーあ、本物だ。
しかも声小さっ。聞こえないわよ。
「なんか悪いの?それ」
当たり前じゃん、だって、私たちってそういうものでしょ。
そんなくっだら無い事考えてたの?
「わたしはエリートだよ?生まれた時から、全部持ってるの」
そうあるべくして生まれたんだから。
人に愛されて、思うがままに生きる事が出来る、そんな実験体よ。私は。
「なんにも持ってないあんたとは違って、皆にあいされて当たり前なの。残念ね」
そのためになら、何だってするの。
持って生まれたって、使えなきゃ何の意味もないってことわかってんの?こいつ。
「もういちど言うわ。クインス兄、あんた、バカじゃない?」
持ってる者を羨んで、持ってないからどうしようもないって、
そんな風に諦めてる顔だ。
いじけて、いつか手が差し伸べられるとでも思ってんの?
……死ねばいいよ、そんなやつは。
「だから、消えてなくなるんでしょ」
私たちは、生きるのに必死なんだ。
思い出したくもない、怖い実験だって、耐えてるんだ。
何もわかってないくせに?
そんなの、お互い様じゃない。
ほんと、ばっかじゃないの?
あーあ。ムキになっちゃった。
反論出来ないわよね、ザマぁ見なさい。
じゃあ、パパは貰っていくから、一人で打ちひしがれてると良いわ。
「パパ、わたしサイテーの気分だから、部屋までエスコートして。お菓子も用意させて」
口がちょっと悪かったから、甘いものと紅茶で、さっぱり忘れよ。
ちょっとした優雅さって大事よね。
あー、うざい。
……あんま寝れなかった。
全部あいつのせいだ……。
うー、眠い。
「ぱぱー、ちょー眠いからハーゲンダッ……何その顔」
酷い顔したパパがいた。
一睡もしてないのは私じゃなくたってわかるだろう。
何かあるのかな?
流石にアイスを強請るのはやめておこう。
私は空気も読める。
「何か良くない事でもあるの?」
「馬鹿なんじゃないの。本ッッッッッッ当に、馬鹿!!!」
聞いて、眠気も何もかも吹き飛んだ。
パパも、この時ばかりは馬鹿じゃないかと思った。
こうなる事実を知ってはいた、でも、むかつく。
「わたし、見に行くわ、パパ。連れてって」
返事はすぐには返ってこない。
見せたくないの?
なんで即答してくれないの、パパ。
優しいのはわかかるけど、けどね。
流石に少しだけ、傷つくんだけど。
「わたしだって、家族だよね?パパ」
なんでこんなこと言ったかなぁ、私。
でも、知らんぷりするのは、やっちゃいけないことだった。
『僕は死にたくない!生きていたい!』
叫んでた。
昨日みたいな薄っぺらい雰囲気なんて、どこにもなかった。
消えちゃうの?
あんなに必死に生きたいって叫んでいるのに。
もしかして、知らなかっただけで、もういなくなってしまった
私の知らないきょうだいも、ああやって叫んでいたのだろうか。
……あんまりじゃない、そんなの。
そんな当たり前に、気づかないふりか、私も。
『このまま終わるなんて嫌だ!』
なんで、聞きに来ちゃったんだろう。
『悔しいんです!このまま……』
知らなきゃよかったな、こんなこと。
『このまま、何も持たないまま死んでしまうことが!』
そうね、私だってそうなったら悔しいと思う。
『生きて、何かを為したい!』
なんかそれ、どこかで聞いたことある。
『僕は、ガーランドです!』
そっか。
聞いた事あるはずだ。
『クインス・ガーランドです!』
……………。
……決めた。
「パパ、昨日言った欲しいもの、決まったわ」
パパは何も言わなかった。
私が言葉にするまで、待っててくれた。
「お願い、パパ、わたしね……!」